WAN(Wide Area Network) とインターネット

以下で、WANとインターネットの違い、WANの例を示します。

WAN(Wide Area Network)の利用形態

WAN(Wide Area Network:広域通信網)は、公道を介する接続になるため、 WAN回線構築の免許を持った「電気通信事業者」が敷設した回線を リースする形態で利用します。 広域ということで固定電話、ISDN、携帯電話、PHS、専用線、フレームリレー、ATM、IP-VPN、広域イーサネット などのネットワークです。
(通信距離や速度、品質に応じて利用料金を払って利用します。)

対して、「インターネット(Internet)」は IPプロトコルをベースにするネットワークです。 つまりIPアドレスを使う前提になりますが、IPアドレスはICANNによって割り振られた番号です。
よって、インターネット用に割り振られたIPアドレスをストックしている会社の、「IPアドレス」と「接続に必要な回線」を借りて利用する形態です。
このインターネットへの接続を 提供する組織(会社)をインターネットサービスプロバイダ(ISP:Internet Service Provider) または、インターネット接続事業者(略して接続事業者)と呼びます。

同一組織(例えば本社と支社をWANで繋ぐなど)を接続してLAN(Local Area Network)を作る形態は 「イントラネット(Intranet)」と呼ばれます。(例えば、社内情報を従業員に提供する目的などに使います。)

対して、別組織(取引先や顧客など)をWAN回線やインターネットVPN(バーチャルプライベートネットワーク)で繋いだ安全なネットワークは 「エクストラネット(Extranet)」と呼ばれます。

一般にWANを提供する「電気通信事業者」は、同時に自身の回線を使ってインターネットサービスプロバイダ(以降はISPと呼ぶ)の事業も行っているが、 ISPには、回線など自社設備を持たずに、他社のWANを利用して独自ブランドをつけたサービスを行っている会社も多い。

WAN回線やISPから自身の会社(または家)までは、アクセス回線(access line)」と呼ぶ専用回線で接続します。
そして、この「アクセス回線」から信号を取り出すための装置を データ回線終端装置DCE: data circuit-terminating equipment)と呼びます。
対して、それに接続する端末(ルータやコンピュータなど)をデータ端末装置(DTE: data terminal equipment)と呼びます。

上記イメージからもわかるようにDCEは、最終的の機器(DTE)で使うために必要なアクセス回線のインターフェイスとなる役割を果たします。
そのため、アクセス回線の物理的な仕様によって対応するハードウェアが異なり、次のようにDCEの呼び方が異なります。 以下で、その例を示します。

アクセス回線の種類DCEの名前機能概要
固定電話モデム(modem)アナログとデジタルの変換
ISDN回線DSU(Digital Service Unit)とTA(ターミナルアダプタ)信号変換とアナログ、デジタル分離
光通信ネットワーク光回線終端装置(ONU : Optical Network Unit)光信号と電気信号の変換

一般の加入電話回線ネットワークやISDNなどの回線交換網や専用線では、下記のHDLCやPPPのプロトコルが使かわれます。)

HDLC (High-level Data Link Control)

HDLCは 上記のWANと繋ぐアクセス回線などのポイントツーポイント接続で使用するデータリンク層のプロトコルで、 最初は国際標準化機構(ISO)によって標準化されている。
初期に半2重通信方式のベーシック手順((binary synchronous communications:1960年IBMで開発)があり、 それからビット指向用としてSDLC(synchronous data link control)が開発され、それを発展させた伝送手順としてHDLCが開発されている。
全二重通信、連続フレーム転送、誤り訂正などの伝送の効率化を主目的として、ITU-Tによって規格化され、 その後の各種プロトコルの原型になっている。以下の構造になっている。

PPP (point-to-point protocol)

2地点間での通信に使用するWANのカプセル化用のプロトコル(RFC1661)で、 インターネット接続事業者(プロバイダ)のルーター同士や,プロバイダとユーザーのパソコンとの間で利用される。
HDLCに比べて、認証、圧縮、マルチリンクなどのさまざまなオプション機能と上位プロトコルの制御をサポートしている。
例えば、PAPやCHAPと呼ばれる認証を行った後、IPCP(IP control protocol)と呼ばれる機能でパソコンへ自動的にIPアドレスを割り当て、圧縮機能で通信することができる。

ISDN(Integrated Service Digital Network)

Integrated Services Digital Networkは『総合そうごうデジタル通信網つうしんもう 』のことす。
総合的なデジタル通信サービスを、既存の電話回線で実現するために設計された国際標準規格です。 これにより、一本の電話回線で 電話、ファクシミリ、コンピュータの同時使用ができます。
ITU-T:International Telecommunication Union で規定されました)
ひとつの回線で3種類のチャンネル(Bチャンネル,Dチャンネル,Hチャンネル)と呼ばれる情報を 扱える構造です。
1536KbpsのN-ISDN と、 約k155MbpsのB-ISDN があります。 (Narrowband と Broadband です。)
NTTのサービス名として、INSネット64、INSネット1500があります。

電話でんわや、ファクシミリ、コンピュータのデータなどひとつのネットワーク−クであつかいます。 アナログ回線かいせん交換機こうかんきではなく、 デジタル加入者交換機かにゅうしゃかこうかんき接続せつぞくするために、 DSU(Digital Service Unit:加入者回線終端装置かにゅうしゃかいせんしゅうたんそうち)をかいして通信します。
なお、これまでのアナログ電話や、ファクシミリと接続するためには TA(Terminal Adapter)を介す必要があります。

以下にN-ISDNの構成例を示します


T1 T3回線

T1回線(ティーワン回線)またはDS1(Digital Signal level 1)は、 ANSI(アメリカ規格協会)という団体が定めた規格で、通信速度が 1.5Mbpsの銅線を使ったデジタル専用回線である。 64kbps の回線を 24本束ねて 1.544Mbps の通信速度を実現している。
(ISDNのINSネット1500にも利用されていた。)
T1回線を 4本まとめて、さらに高速化したものを T2回線と呼ぶ。
また、T2回線を 7本まとめて高速化したものを T3回線と呼ぶ。 ( T3回線は、T1回線 28本分に相当して、通信速度は 44.73Mbps)
現在はさらに高速な T4回線も規格化されている。

なおヨーロッパではこれらと別で、 E1回線、E3回線 と呼ばれるデジタル回線の規格が使われてきた。

WAN回線の変遷

WANでパケット交換の回線では、 1990年代にフレームリレーやATM(Asynchronous Transfer Mode)と呼ばれるサービスや X.25のプロトコルがありました。
X.25は、OSI参照モデルより以前から存在している パケット交換のWAN通信のためのプロトコル(ITU-T勧告)です。

フレームリレーは、信頼性の高い物理回線を前提として、パケット単位で、簡素化したコネクションレスのデータ交換を行う通信方式です。
デジタル回線のような誤り発生率の低い高品質の回線で、X.25より高性能な回線を安価に提供しました。
しかし、2000年代になるとIPベースの仮想プライベートネットワーク(IP-VPN)や広域イーサネットなどが登場し、 現在ではそれらがフレームリレーの代わりに使われています。

またATMは、53バイトの固定長のデータであるセルを基本的な通信の単位とし、「セルリレー」と呼ばれます。
宛先をハードウェアで処理することで交換機内でのタイムロスを減らす特徴があります。
次世代高速ISDN (B-ISDN) として期待されましたが、現在は企業ネットワークのWANサービスとしてほとんど使用されていません。
しかし一方で、多数の電話会社が広域ATMネットワークを構築した経緯があり、 キャリア網(W-CDMAなど第三世代携帯電話)でしばらくの間はATMがバックボーンとして使われると予想されています。